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あなたはバフティヤル・フドイナザーロフ監督を知っていますか?

フドイナザーロフ

中央アジアにタジキスタン共和国という、1990年にソビエトから独立したばかりの小さな国がある。
そしてその小さな国にはバフティヤル・フドイナザーロフという映画監督がいて、もんのすごい映画を3本ばかり撮って、10年ほど前に日本に住む僕たちにも見せてくれたのだった。

まず、僕もよくわかってなかったタジキスタンっていう国のことを当時の映画パンフレットから引用しつつご紹介。

タジキスタン共和国。
世界の屋根と呼ばれるパミール高原にあって東洋と西洋の入り交じる国。
やっぱり島国ニッポンに住む僕からはにわかに思い浮かべることができない場所。
北にキルギス共和国、東に中国のウイグル自治区、南にアフガニスタン、西にウズベキスタン共和国と国境を接するこの小さな国の形はぐにゃりとひしゃげていて、過去に繰り返し行われてきた侵略や分離の歴史をそのまま映しているのかもしれないと思わせる。

タジキスタン

タジク民族はトルコ系が大半を占める中央アジアにおいて唯一のイラン系の民族だそうで、その歴史は紀元前10世紀以前にまで遡れるのだが、その中で独立した国家となれたのは9世紀頃のサーマーン王朝の時代のみで、それ以前はアラブ人、以後は近隣のトルコ(テュルク)民族の支配下に置かれ、やがてテュルクもタジクもひとまとめにウズベク共和国としてソビエト連邦に吸収されることとなる。

その混沌とした歴史は共和国としてソ連から独立した以後も続き、1992年には共産党系の政府とイスラム系反政府との間で内戦が勃発したりもしている。
同盟を結んでいるロシア軍が駐留しているが、2001年のテロ戦争以降は小規模ながらアメリカ軍も駐留しているそうだ。南のアフガンに潜伏するタリバン狙いなのかな? ただ、タジキスタンの国内自体ではソビエト時代の無神論政策の影響もあって信仰の力はそれほど強くないらしいし、紀元前より独自の信仰を続けてきた中央アジアのイスラム教はイランのシーア派とは異なる宗派で、過激な「イスラム原理主義」が広まっているというわけではないという。
現在のタジキスタンは人口600万人。タジク人の他テュルク系のウズベク人やソビエト時代に移り住んだロシア人などさまざまな民族が住んでいる。


1993年当時、中央アジアと聞けばただ漠然とシルクロードやモンゴルやウイグルの遊牧民なんかを思い浮かべる程度にしか知識のなかった僕は、タジキスタンの若い監督(1965年生まれ)、バフティヤル・フドイナザーロフが撮ったばかりの映画「少年、機関車に乗る」を見てその瑞々しい未知性に驚き、内戦まっさかりなんてことも当然知らぬまま、ただただ圧倒され続けたものだった。自分の無知と閉鎖性を棚に上げてあえて言うならば、それほどこの映画は宗教からも戦争からも自由であることができたのだろう。
少年機関車に乗る
列車の前を優雅に駈けて行く馬のシーン

その翌年には「コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って」、2000年には「ルナ・パパ」と、フドイナザーロフの新作が公開される度にわくわくしながら劇場に足を運んだものだし、そのどれもが期待以上の素晴らしい映画だったことは言うまでもないのだが、「少年、機関車に乗る」はタジキスタン・旧ソ連の合作で、「コシュ・バ・コシュ」はタジキスタン・スイス・日本の合作。少し待たされた「ルナ・パパ」はドイツ・オーストリア・日本の合作と、なにを持って合作というのかは曖昧なところもあるにせよ、資金やスタッフや俳優を内戦に明け暮れるタジキスタン本国のみで揃えるのはとても困難なことだったのだろう。出資者や製作に携わる人々や俳優などが国境を越えて入り交じっても、やっぱりどの作品にも官能的な躍動感が爆発しているフドイナザーロフの映画は、まるでタジキスタンの歴史そのものみたいだなーと、いま改めて感じさせられる。
フドイナザーロフ
パンフレットをひっぱりだしてみました

彼の映画に登場する男性は荒々しく粗暴で逞しいけど、みんな陽気で憎めない男ばかりだ。
「少年、機関車に乗る」のディーゼル機関車の運転手は運搬の途中、線路沿いの自分のうちの前で列車を停めて洗濯物を干す女房と話したりトラックと競争したりと自由気ままだし、「コシュ・バ・コシュ」の男どもは内戦の銃撃音が響く中、道ばたで賭けに興じ喧嘩をするかと思えば愛人と密会して女房に石を投げられる奴もいたりして。「ルナ・パパ」のセスナ機のパイロットも、仕事の途中に愛人の家の前に着陸して客を待たせて昼下がりの情事にふけったり空から網をかけて羊を盗んだりとロクでもないのだが、そんな彼らのどこにも陰惨さはみじんも感じられない。トリュフォーの映画に出てくるようなうじうじした男なんかはひとりもいなくて(笑)どいつもこいつも戦争だろうが戒厳令だろうがおかまいなしに女の尻ばかり追いかける。まるで「後悔」なんて概念はどこにも存在しないかのようだ。
男尊女卑の古い風土の中、女は女でそんな男たちよりも全然強かったりする。しょうもない男を罵倒し殴りはたまたキスをしてひとり涙を流しながらダンスする女たちの、なんと魅力的なことか。
誰もがみな勝手でわがままでいきいきと目を輝かしていて、なんというか、生きる力に満ちあふれているのだ。
見ているうちに、この底抜けにあっけらかんとした明るさと爆発するようなエネルギーは、ジャン・ルノワールの映画のそれと同じなんだなーと気づく。

それから、フドイナザーロフの映画を見たことがある人ならば誰しも心を奪われてしまう「乗り物」たちのことも忘れてはいけない。

ぶらたん
「少年、機関車に乗る」の主役とも言うべきディーゼルカー。

コシュバコシュ
「コシュ・バ・コシュ」の街を往復し、時には空中で停まってビールを盗んだりラブホテルにもなったりする埃まみれのロープウェイ。

そして「ルナ・パパ」のトラック、戦車、騒々しい害虫駆除車、悲喜こもごもなヒロインを乗せる渡し船、横暴で強引なセスナなどなど。目をつぶらなくても今もありありと浮かんで来るあの乗り物たち…
ルナパパ


当時の僕は、こんなものすごい監督の作品に巡り会えることをただ当たり前のように享受するばかりで、その背景にもありがたみにもまるで気がつかぬまま、フドイナザーロフの新作は当然いつも見ることができると思い込んで疑わなかった。
2000年に公開された「ルナ・パパ」は日本でもそこそこ話題になったし興行収入もそれほど悪くなかったと思うのだが、その後撮られた「スーツ」は、2003年の東京国際映画祭で審査員特別賞と優秀芸術貢献賞を受賞したにもかかわらず一般公開されることはなかった。
スーツ
「スーツ」のスチール。 見たいー!

2006年に撮られてロシアで公開されたらしい「Tank 'Tango'」に至っては、日本国内には情報すら流れてくることもなく、僕も先日Mixiのコミュニティで新作に関する海外サイトを教えてもらって初めて知って、嬉しいような悲しいような複雑な気分。
tanker tango
Tank 'Tango'のスチール。 見たいー!!

フドイナザーロフの映画は、別にコアな映画ファンのみならず、現代ハリウッド映画しか見たことが無いような人たちにも十分に受け入れられるはずだし、映画本来の驚きと喜びに圧倒されることは間違いないだろうに、気がつけば日本で公開された3作もビデオ、DVDともに廃盤となってしまっている。なんでじゃっ!!ヽ(`Д´)ノ
日本公開された3作品はすべてユーロ・スペースが配給元だったらしいけど、場所変わってリニューアルしてからは体質変わっちゃったのかなあ・・てか、別にユーロじゃなくてもいいからどっか配給してくれっ!!ヽ(`皿´ )ノ
まだ40代の現役バリバリの監督だってのに、日本で公開されなくなったからと言うだけで、無名の監督として忘れ去られてしまうにはあまりにもったいなさすぎます。
メジャーとマイナーの違いってのは情報と宣伝の量の差だってことなのかい?(怒)

「Tank 'Tango'」の中のいくつかのシーンが見れるロシアのサイトで中途半端に小さな画面の動画を見てしまったばかりに、フドイナザーロフが見たくてたまらない病が再発してしまったというのに国内の有様と来たら本当に悲しすぎる。
仕方が無いので、むかーし録画したけど一部失敗して、でも消せないままでいた「コシュ・バ・コシュ」を久しぶりに見直した。内戦まっただ中に撮られたこの映画の中では、絶えず遠く近く機銃の音が鳴っているし、夜の砲撃や照明弾は花火のように恋人たちの後ろで光る。
当時のパンフレット引っ張りだして読んでみたら、機銃の音は同時録音ではなく後からかぶせたもので、夜の砲撃は兵隊たちに頼んで再現してもらったんだ、という監督のインタビュー。ハリウッドで大掛かりな仕掛け作って戦争を再現するのとはわけが違う。ほんとの戦場で戦闘シーンを捏造しちゃうんだから滅茶苦茶です。そんな中を陽気な山師のじいさんやヤクザ顔の博打うちが踊ってみせたり凄んだり。そして何度見ても鳥肌が立つ抱き合うふたりを乗せたロープウェイが音も無く静かに滑り出すシーン。
コシュバコシュ


本当にこの人の映画は宝物です。
ああ、明日は「ルナ・パパ」見ようかなー。
また近い将来、日本にもフドイナザーロフの埃っぽくて強い風が吹くことを心から祈りながら。




関連text
「タンカー・アタック」~失われた12分間のタンゴ~


関連外部リンク
「少年、機関車に乗る」→旧ユーロスペース映画紹介ページ

「コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って」→旧ユーロスペース映画紹介ページ

「ルナ・パパ」→amazon(中古DVDは買えるみたい)

「スーツ」→東京国際映画祭で見た方の感想ページ

「tanker 'tango'」→ロシアの紹介サイト(まったく読めません)

「ルナ・パパ」公開当時の監督インタビュー

「スーツ」の頃の監督インタビュー



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タジキスタンタジキスタン共和国(タジキスタンきょうわこく)、通称タジキスタンは、中央アジアに位置する旧ソビエト連邦の共和国。首都はドゥシャンベ。南にアフガニスタン、東に中華人民共和国|中国、北にキルギスタン、西にウズベキスタンと国境を接する。.wikilis{font

#0077『ルナ・パパ』バフティヤル・フドイナザーロフ監督 1999年 ドイツ・オーストリア・日本 

”LUNA PAPA” 監督:バフティヤル・フドイナザーロフ 原作:イラクリ・クヴィリカーゼ 脚本:イラクリ・クヴィリカーゼ 編集:ネグマト...
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コメント

はじめまして

TBありがとうございました。
レス、遅くなってすみません。
この舌を噛みそうな名前の監督の作品について詳しく書かれていらっしゃるので嬉しかったです。
「少年、機関車に乗る」しか観ていませんが、俄然、他の作品も観たくなりました。
乗物映画の方だったのですね。
特にロープウェイの映画に惹かれます。
バフティヤル・フドイナザーロフの埃っぽい風、私も期待しながら待つ事にします。

コメントありがとうございます♪

TB承認いただきありがとうございました。

「少年機関車に乗る」、この前シネマヴェーラでやってましたよねー。
見に行こうか迷って結局行かなかったのですが、今となってはとても後悔しています。他の作品もぜひぜひ見てもらいたいんですが、なんでやってくれないんでしょうねえ・・・。
「ルナパパ」は一度DVD化されたらしいので、レンタル屋さんにあるかもしれません。「コシュ・バ・コシュ」も、どこだかのツタヤにはビデオがあったそうです。
でも、やっぱり映画館のスクリーンで見たいですよねー。。。

それにしてもimaponさんはものすごい数の映画をご覧になっているんですね。
TBさせてもらったことを機に、これからはちょくちょくブログを拝見させていただきます。
いろんな映画を教えてくださいませ!
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