1. 無料アクセス解析

「西欧」~三度の土砂降りの夜を経た朝の選択~

occident1

2002年 クリスティアン・ムンジウ監督

例えばバフティヤル・フドイナザーロフ監督の「コシュ・バ・コシュ ~恋はロープウェイに乗って~」が、内戦で混沌としていた撮影当時のタジキスタンの状況をごく普通のこととして描き、遠くに響く銃撃の音をBGMとしながら物語は進行していって、夜間の対空砲火を花火に見立てた恋人たちがうっとりと寄り添ったりする破天荒さに比べると、クリスティアン・ムンジウ監督の撮る1994年のルーマニアを舞台としたこの映画は、きっとはるかに問題意識に溢れているはずなのだろう。

2007年のカンヌでパルム・ドールを受賞した、チャウチェスク政権末期の若者たちの映画だという「4ヶ月、3週と2日」は残念ながら未見のままなのだけれど、先日フィルムセンターで、そのムンジウ監督のデビュー作である「西欧」~原題Occident(west)~を見た。時間ギリギリに会場に到着したら、思いのほか盛況でびっくり。EU FILM DAYS 2008という企画柄か、白人の客も多い中、日本語とフランス語の字幕付きでの上映だった。
チラシの案内で、現代ルーマニアを舞台とした若者たちのオムニバス形式の映画だということは知っていたけれど、せいぜいすれ違う程度だと思っていた各話の登場人物は密接に絡み合い、彼らが過ごした数日の出来事が浮かび上がる構成となっていた。

「ルーマニア版パルプ・フィクション」と言ってしまうにはあまりに語弊が多すぎるかもしれないが、苦い物語を時間軸を前後させながらコメディ・タッチのオムニバスで描いたという意味では、「パルプ・フィクション」にも確かに似ている。各話が終わるごとに二転三転していく「事実」。ひどい!と思った事柄が実は誤解だったり、よかった。と思っていたらあっけなく裏切られたり。一貫しているのは、彼らにとって未知の土地「西欧」が、いつも光り輝いているということか。
なんにしても、すごく笑えるくせ妙にじんわり心にしみる105分だった。機会があればぜひもう一度見直したい映画である。


パンフレットもなにもないので、以下忘れないうちに自分のためにあらすじを書いておこうと思う。
シーンの序列にはあまり自信なし。

第1話「ルチとソリナ」
画面を右から左にすすけた貨物列車が走り抜けると、貨物列車以上にすすけた公団のようなアパートが姿を現し、画面の手前からは買物帰りらしいカップル、ルチとソリナが線路をまたいでアパートへ帰って行く。ところがなぜか彼らの家具は全部アパートの前のぬかるんだ地面の上に出されている。ルチがあわてて部屋に行くと理由はよくわからないが隣に住む背の低い男がやらかしたことらしい。今までは男の情けで置いてもらっていたのかな?あきらめて外に出されたソファに腰掛け悩むルチ。とりあえず一人暮らしのおばさんのうちに転がり込もうと言うルチに対し、ソリナはいっそのこと外国で暮らしたいと言う。なんかオープンセットのような変な空間で、ソリナは「お父さんに相談に行く」とおもむろに着替えを始めるファースト・シーン。

続く墓地のシーンでは、ソリナが亡き父から啓示を受けようとしてルチと一緒に墓に向っている。
occident

「啓示を得るならもっと具体的に聞かなくちゃ。例えば『僕たちは外国に行くべきか。Yesならあそこのカラスを飛ばしてください』とかさ」「あ、飛んだわ。なら外国に行くのね」「あ、今のは例えばだから駄目。今度カラスが飛んだら外国には行かない」などとやっているふたり。遠くに墓地の通りをかけていく花嫁姿の女。と、どこからともなくワインの瓶が飛んで来て頭に当たり気を失うルチ。通りかかった赤い車に助けを求めるソリナ。

気を失ったルチは病院に運ばれてやけに太った看護婦ふたりの手当を受けるが、病院を出たルチが一人暮らしのおばさんの家に行ってみてもソリナはいない。どうやらルチは見限られた様子。おばさんはと言えば「体に悪いからだめ」と言われてもコーヒーに砂糖をがばがば入れている。おばさんが死ねばこの部屋はルチのものになり、ソリナとまた暮らすことができるのだが。おばさんはドイツに亡命した息子のニクをずっとひとりで待っているのだ。

ソリナが勤める幼稚園では、オランダから来たという男の前で幼児たちが「幸せなら手を叩こう」を合唱している。
唾を掛け合う悪ガキふたりが怒られている。「上手に歌えた人はこのおじさんに連れて行ってもらえますよ」と園長らしきおばさんがハッパをかけている。これでは「異人さんに連れられて行っちゃった」なんて唄の歌詞そのままじゃん、と思って見ていたら「孤児じゃない子が何人かまぎれこんでいるようですね」なんて台詞。どうやらオランダ人は養子を探しに来ているらしい。ワンルームのおばさんの家なんかに住みたくないソリナは、この幼稚園で寝泊まりさせてもらっているようだ。

転職して、デパートかなにかの「広告宣伝部」で働き始めたルチ。とはいえ仕事内容はビールの着ぐるみを来て街でビラを配ること。隣に携帯電話の着ぐるみがやって来たので声をかけようとすると逃げる携帯。どうやらルチの前にビールの着ぐるみを着ていた男とケンカをしたらしい着ぐるみ携帯は女性の声。恋人に電話したいから、と携帯に携帯を借りて電話するビールと、ビールにもらった缶ジュースをストローで飲む携帯の組み合わせが妙におかしすぎ。携帯女の名前はミハイル。次第に打ち解けていくふたり。頭の部分を外してベンチで休憩するシーンでは、さりげなくミハイルはコカ・コーラ、ルチはペプシを飲んでいたりする。

おばさんの隣に住んでいるルチの友人ジカがおばさんを遊園地に誘っている。「だめだよ。遊園地の乗物は体に悪いから」と言いながら相変わらず飲み物に砂糖をガバガバ入れているおばさん。ジカが持っていたタバコが、もう片方の手に持っていた赤い風船に触れていきなりパン!と割れたときは「おおっ」と声をあげてびっくりしてしまった。
occident4


夜、幼稚園の前にハートマーク模様にロウソクを飾りソリナに戻って来てもらおうとするルチ。出迎えた園長はけんもほろろに彼女はもういないと言う。どうやら赤い車の男ジェロームの家に転がり込んだ模様。その家に押し掛けるルチにソリナは冷たい。ジェロームはベルギー人であと数日したらルーマニアを出国するという。すごすご帰るルチ。

夜の遊園地のシーン。
なにやら回転する乗物に乗りヘロヘロになったジカの横で嬉しそうにはしゃぐおばさん。下では携帯着ぐるみを着ていた同僚の女が男と一緒にベンチに座ってウォークマンを聴いている。「この曲好き」と男に聴かせる女。その途端ものすごい大音量でその曲が流れる。「僕たちは今は子供。だけど2000年になったら素敵な世界が待っている」共産主義時代のヒット曲だろうか、東欧のポップスらしいポルカ調の曲。不意に流れた元気いっぱいのこの曲で僕は大泣きしてしまった。ズルイよ、曲で泣かすなんて。

夜のカフェでルチが2人の男と会っている。ニクがドイツで死んだことをおばさんに伝えに来たというのだ。「なるべくショックがないように伝えてください」と頼むルチ。だがおばさんの部屋のドアをノックするやいなや「息子さんが死にました」とストレートに言う男たちのバストショット。ドサリと倒れる音に下を向くふたり。そこへルチもやってくる。居合わせたジカは「こんなチャンスはまたない。早くソリナのところに行って来い」とルチをけしかける。土砂降りの中自転車をこいでジェロームの家に向うルチ。しかし、数分前に赤い車はソリナを乗せて行ってしまいルチはひとり部屋の中で涙に暮れるのだった。


第2話「ミハイル」
披露宴の準備中ワインの瓶の数をチェックする花嫁の父。式の直前に消える花婿。とほうにくれて教会を出て墓地通りのベンチでうなだれる花嫁。奥の墓地ではルチとソリナが啓示を受けようとして神妙な顔をして座っている。花嫁の前に赤いジープが通りかかり止まる。一瞬希望に輝く花嫁の顔も、墓地から飛び出して来たソリナの「助けて」と言う声に行ってしまう車の後ろでまた暗くうなだれる。そんな彼女の手にはルービック・キューブ。
occident2


花嫁の名前はミハイル。詩を書くのが好きな24歳の彼女は、デパートの広告宣伝部で携帯の着ぐるみを着て働いている。ミハイルの母は男運の悪いミハイルをいいかげん嫁がせようとひとり結婚相談所に足を運ぶ。そこは外国人専門の紹介所。次々と紹介される西欧に住む医者や弁護士はみんな60歳ぐらい。そんな母をよそにミハイルは次第に同僚のビール男ルチに淡い恋心を抱く。書いた詩を見せたり一緒に好きな曲を聴いたり。それでも母に説得されて相談所で紹介された男たちと街で見合いするミハイル。「ドラキュラとコマネチだけがルーマニアじゃありません」と真面目に語るミハイルの体を舐め回すように見るスケベオヤジ。
occident3

ミハイルの母と友人の幼稚園の園長女史が「こんなレストランも民主化のおかげよねー」なんていいながら食事中。カメラが引くとそこは見慣れたマクドナルドの店内。
警察幹部を退職した「大佐」と呼ばれるミハイルの父は外国人との結婚には反対しているが母は「外国に行きたがっているのはミハイル自身なのだ」と説得する。

そんな中、若いイタリアの出版社の社長が紹介されてミハイルに会いにルーマニアにやってくることになった。大騒ぎしてかつての部下を使い家のインテリアをイタリアのものに変える大佐。ミロのビーナスの置物の腹には時計がついていたりする。母親が見よう見まねで作ったパスタがめちゃくちゃまずそう。ところが、現れたイタリア人ルイジは黒人で家族一同大ショック。人種差別意識が根強く残っているらしいルーマニアでは普通に笑えるシーンなのか、はたまた風刺的な描写なのか、素直に笑えないなんとも微妙なシーン。
ルイジはミハイルの詩をイタリアで出版してあげるという。彼との結婚を決意したミハイルは仕事を辞めることになり、仕事納めの日にルチにロッカー室で別れを告げる。鈍感なルチの頬にそっとキスをする彼女は、自分の書いた詩を押し付けるようにして去って行く。

大佐はドイツから来た男とともに、亡命したニクが死んだことをルチのおばに告げに行くことになった。事前にルチと会って話し、娘が外国に行くことになって空いた部屋をルチに貸すことになる。
おばの家を訪れ「息子さんが死にました」とあっけらかんと伝える大佐。ところが扉を開けたのはおばさんの隣に住むジカの母親だった。びっくりして倒れるジカの母親。住む部屋が見つかったことを伝えに帰ってきたルチ。ジカは「こんなチャンスはまたない。早くソリナのところに行って来い」とけしかける。土砂降りの中自転車をこいでジェロームの家に向うルチ。ジェロームとともに赤い車に乗り込み出発しようとした所で家の中にルチを見たソリナは、ジェロームの制止を振り払い雨の中をルチのもとへと走って行く。抱き合うルチとソリナを中心にカメラがぐるぐるとまわる。



第3話「大佐とジークフリード」
警察での退官式。大佐が演説をしている。横にはオランダから視察に来たという官僚がいる。

娘の結婚式の当日。逃げた花婿を追う大佐。披露宴で出すワインの瓶をかっぱらって逃げた酔っぱらいの花婿を見つけののしると、花婿はワインの瓶をほうりだして大佐にあやまる。「助けて」というソリナの声が遠くでしている。

寝室で娘を外国の男に嫁がせることに文句を言う大佐。「私の娘は外国に嫁いで幸せになったわ」と言うのは妻ではなく、浮気相手の幼稚園の園長。

幼稚園ではオランダ人が養子を迎えようとして孤児を集めている。ひとりひとり前に出て自己紹介する孤児たち。唾を掛け合う悪ガキふたりがこっぴどく叱られている。

大佐のもとにジークフリードという男がやって来る。共産主義時代にルーマニアを亡命して当時大佐が捕まえ損ねた男。彼がドイツで面倒を見ていた亡命者のニクが死んだことを親族に伝えに来たのだという。ニクが亡命したときに逃げ損なったのがルチ。「自分が死んだらルチに渡して欲しいものがある」というニクの遺言で、ジークフリードが持って来たスーツケースの中身は黒人のダッチワイフ。ダッチワイフを膨らませて浮き袋にして川を渡り亡命した思い出の大切な品らしい。

幼稚園ではオランダ人の養子が決定した模様。「ガブリエル君はもう二度と唾を吐かないと約束してくれました」決まったのは唾を吐き合っていた悪ガキのひとりだった。呼び出されて前に出ようとするガブリエルに唾を吐くもうひとりの悪ガキは斜視。

イタリア人との見合いの当日、ミハイルは大佐が預かったスーツケースの中身を見てしまう。その直後黒人のルイジがやってきて、ミハイルはダブルショック。それでも一見なごやかに晩餐は進む。

ジークフリードと大佐はルチを夜のカフェに呼び出してニクの死を伝えるが、存外ルチはそっけない。自分がトイレに行っている隙にひとりで逃げたニクなど知ったことかと怒っている。「それに僕らのダッチワイフは白人だったよ」との台詞に劇場の後ろの方で爆笑する声は白人たちのものだったのかな?
明日ドイツに帰るというジークフリードに、黒人との結婚が決まっている娘のことを相談する大佐。「気心しれた君にだったら娘を預けてもいいのになあ」と。

おばさんの部屋でジカの母親を介抱している大佐とジークフリード。そこへルチが帰って来る。あらためて「ニクのことを伝えに来た」とおばさんに言う大佐たち。喜びに輝くおばさんの目に、とっさに「ニクはドイツで成功して忙しく働いていて連絡する暇もないのだ」と言うルチ。
大佐が部屋を貸してくれることになったとおばさんに告げると「こんなチャンスはまたない。早くソリナのところに行って来い」とジカにけしかけられ、土砂降りの中自転車をこいでジェロームの家に向うルチ。

土砂降りの中、ルイジが大佐の家を出てタクシーに乗ろうとしている。傘をさして隣に立つミハイルはしかし、彼と一緒に車には乗らずに家の中に戻る。彼女はこの国に残ることを決意したのか。

間一髪で間にあいソリナと抱き合うルチ。でも住む部屋が見つかったことを伝えると、やっぱりどうしても外国に行きたいソリナは結局ルチを置いて赤い車に戻り、ジェロームとともに去ってしまう。
occident1


翌朝。オランダ人に連れられてガブリエルが旅立とうとしている。ミハイルもジークフリードとともにドイツに旅立つ様子。彼女を見送りに来ているルチ。「お友達に最後のご挨拶をしましょう」と園長に言われて手前に歩いて来るガブリエル。相手は斜視の悪ガキ。奥ではルチに抱きつくミハイル。「さようならバヌツ君」と言い終わってすぐさっと後ろにガブリエルが身をのけぞらせた瞬間、急にぴたりと時間が止まり、あの「2000年になったら」が流れ出す。そして再び時間が動きだし、見事に唾をよけたガブリエルと車に乗り込んで去ってゆくミハイルにエンディングロールがかぶさってゆく。

(細かい間違いなどいっぱいあるかもしれません。見た方のご指摘をお待ちいたします)



Occident Trailer(Mobra Filmサイト) ←テレビバラエティのような予告編・・・
Preview "Occident"(YouTube) ←映画冒頭10分が見れます(英語字幕)
Noi in anul 2000(YouTube) ←エンディングテーマ(涙)


トラックバック
この記事へのトラックバックurl → http://murakamit.blog71.fc2.com/tb.php/86-70cb05f3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
コメント
コメントの投稿
 ※コメントの再編集・削除時に必要となります。
管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。